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ホヤに卵を預ける魚を初めて特定?カジカ科魚類の産卵管と産卵行動は、産みつける宿主に応じて進化していた~

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概 要

 大阪市立大学大学院理学研究科(元新潟大学理学部附属臨海実験所)の安房田智司准教授の研究グループは、岐阜大学、総合地球環境学研究所、東海大学、北海道大学と共同で、他の生物に卵を預ける海産のカジカ科魚類8種について産卵宿主種(ホヤやカイメン)の特定に成功し、さらにはカジカ科魚類が産卵管を宿主種の種類や大きさに応じて進化させていることを世界で初めて発見しました。
今回の発見は、生態研究がほとんど進んでいない冷たい海域の動物の生態を知るうえで、非常に重要な成果と言えます。
本研究内容は2019年4月6日に海洋生物学の専門雑誌『Marine Biology』のオンライン版に掲載されました。

雑誌名:Marine Biology
論文名:Host selection and ovipositor length in eight sympatric species of sculpins that deposit their eggs into tunicates or sponges
著 者:Satoshi Awata, Haruka Sasaki, Tomohito Goto, Yasunori Koya, Hirohiko Takeshima, Aya Yamazaki, Hiroyuki Munehara
掲載URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s00227-019-3506-4

本研究の概略

 世界に約300種が知られる海産のカジカ科魚類は、魚類の中でも特に多様な繁殖生態を持っているグループです。一般的な魚類のように岩に産みつけた卵に精子をかけて体外受精する種だけではなく、は虫類や鳥類のように交尾を行って受精した卵を産む種も見られます。海釣りや磯遊びが好きな人の中では、アナハゼやキヌカジカといった本州沿岸で普通に見られるカジカ科魚類の存在は認知されていますが、他の生物に卵を預ける「卵寄託」といった珍しい産卵生態を持つことはほとんど知られていません。ダイバーや一部の研究者らには、交尾後に雌が単独でホヤやカイメンに卵を預けるカジカがいることが観察されていましたが、どのカジカがどのようなホヤやカイメンを産卵場所として利用しているのか、またどのような方法で産卵するのかは、これまで全く分かっていませんでした。
 当研究グループは、新潟県佐渡島で冬から春にかけて潜水調査を行い、沿岸に生息する9種のカジカの雌を採集して産卵管の長さを調べました。また、宿主となるホヤやカイメンを1200個以上集めて120卵塊を発見し、どの種類のカジカの卵かをDNA分析で特定しました。その結果、以下のことが初めて明らかになりました。

図1(A)アヤアナハゼの雌(全長約10cm)とカイメンに産みつけられた卵。
(B)スイの雌(全長約7cm)と群体ボヤに産みつけられた卵。発眼卵。
(C)アナハゼの雌(全長約15cm)とリッテルボヤに産みつけられた卵。
図1(A)アヤアナハゼの雌(全長約10cm)とカイメンに産みつけられた卵。 (B)スイの雌(全長約7cm)と群体ボヤに産みつけられた卵。発眼卵。 (C)アナハゼの雌(全長約15cm)とリッテルボヤに産みつけられた卵。

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(1)9種中8種のカジカの産卵場所がホヤやカイメンであることを特定しました。そのうちの4種はこれまで産卵場所の情報が全く無く、新規の発見となりました。

(2)カイメンやカイメンに良く似た群体ボヤの出水孔に産まれていた卵は2種のカジカ(アヤアナハゼ:図1Aとスイ:図1B)、単体ボヤ(いわゆるホヤ)に産まれていた卵はそれ以外の6種のものでした(図1C)。孵化した仔魚は出水孔から出ていきます。

(3)産卵管の長さは利用する宿主の種類や大きさによって決まり、カイメンや群体ボヤに産みつける2種(アヤアナハゼ、スイ)の産卵管は短く(図2A, C, D)、単体ボヤを利用する6種は長い産卵管を持っていることが分かりました(図2A, B)。また、単体ボヤに産みつけるカジカ6種の中でも産卵管の長さに違いがあり(図2A)、大きさの異なるホヤを使っていたことから、これにより産卵場所を巡る競争を回避していると考えられました。

(4)カジカ科魚類の祖先型は卵を岩の上に産みつけ、産卵管を持たないことから(図2E)、産卵管はホヤやカイメンに産卵するために進化したものだと結論づけられました。

図2(A)体長と産卵管長の関係。nは個体数。(B)単体ボヤに産卵するアサヒアナハゼ。赤矢印は産卵管の位置を示す。(C)カイメンに産卵するアヤアナハゼ。(D)群体ボヤに産卵するスイ。(E)岩の上に産卵するニジカジカ。
図2(A)体長と産卵管長の関係。nは個体数。(B)単体ボヤに産卵するアサヒアナハゼ。赤矢印は産卵管の位置を示す。(C)カイメンに産卵するアヤアナハゼ。(D)群体ボヤに産卵するスイ。(E)岩の上に産卵するニジカジカ。

 

 本研究から、卵寄託を行うカジカ科魚類の宿主選択と産卵管の進化が明らかになりました。ホヤは硬い被のうで覆われています。また、カイメンは毒を持ちます。そのため預けた卵は捕食されにくいと考えられます。さらには、卵はホヤやカイメンの出水孔に産まれており、常に海水が循環しています。このようにホヤやカイメンはカジカの卵にとって最適な環境を備えており、カジカの卵寄託は非常に有効な繁殖戦略と言えるでしょう。本研究は、魚類の巧みな産卵方法の一つを明らかにした重要な研究であると考えています。

今後の展望

 魚類をはじめ海洋には多様な繁殖生態を持つ生物がたくさん暮らしていますが、詳細な研究は手つかずのままです。今回は佐渡島での話でしたが、太平洋側の卵寄託カジカは同種であっても異なる宿主を利用し、産卵管の長さもそれに対応して進化していることが分かってきています。また、北米西海岸にもホヤやカイメンに卵寄託を行う別種のカジカ科魚類とその近縁グループがいることを私たちは突き止めつつあります。今後も、海洋、特にほとんどが未知である冷たい海域での魚類と無脊椎動物の詳細な生態研究から、ユニークな産卵生態とその進化が明らかになると期待されます。

用語の説明

カイメン
 最も原始的な多細胞動物。岩などに固着する動物で、水を取り入れる入水孔と排出する出水孔を持ち、海水をろ過してプランクトンを濾し取って食べています。

ホヤ
 ヒトと同じ脊索動物に属します。ホヤには1個体からなる「単体ボヤ」と小さな個体が群体となる「群体ボヤ」がいます。ホヤもカイメン同様、入水孔と出水孔を持ち、海水を取り込んでプランクトンを食べています。

補足

 下記のURLから、カジカ科魚類のアサヒアナハゼがホヤに産卵する動画とアヤアナハゼがカイメンに産卵する動画がご覧いただけます。宿主とカジカ種の対応関係を表した補足資料もご覧ください。
https://link.springer.com/article/10.1007/s00227-019-3506-4

発表者?共同研究グループ

安房田智司(大阪市立大学 准教授)
古屋康則(岐阜大学 教授)
武島弘彦(総合地球環境学研究所 外来研究員、東海大学 特定研究員)
宗原弘幸(北海道大学 准教授)

資金援助

本研究は下記の資金援助を得て実施されました。
科研費『多様な繁殖生態を有する海産カジカ科魚類の性的形質と精子特性の進化の解明』
科研費『脊椎動物の陸上進出を促した精子?生殖様式の多様化機構の解明:カジカ魚類の比較から』
佐々木環境技術振興財団?試験研究費助成金『佐渡の沿岸海洋環境の理解に向けてのホヤと魚の相互作用系についての研究』