公立大学法人大阪市立大学
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ヤマコウバシがたった1本の雌株から生じた巨大なクローンであることを発見!

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プレスリリースはこちらから

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆3/8 日本経済新聞
◆3/29 日経産業新聞

本研究のポイント

ヤマコウバシ※1がたった1本の雌株から生じた巨大なクローンであることを解明。
◇ 生物の世界に性というシステムが広く存在する理由の解明につながる可能性を
 示唆。

※1ヤマコウバシ…東北から九州の森林に分布する落葉樹

概要

 大阪市立大学大学院 理学研究科 生物地球系専攻准教授 名波 哲(ななみ さとし)?大阪府立大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻講師 徳本 勇人(とくもと はやと)?東北大学大学院 農学研究科 資源生物科学専攻准教授 陶山 佳久(すやま よしひさ)らの研究グループは、日本の山野に生える4種の雌雄異株樹種、ヤマコウバシ、アブラチャン、クロモジ、ダンコウバイのDNA情報から、これらの樹種が雌雄異株性の不利をいかに克服して集団を維持しているのか、その仕組みを探りました。その結果、ブラチャン、クロモジ、ダンコウバイの3種は、自家受精や単為生殖を行わず、必ず雌雄の交配によって近交弱勢を避けていることが示されたものの、ヤマコウバシは雌株が単独で種子を生産することで雌雄異株性の不利を克服し、さらに日本のヤマコウバシがたった1本の雌株から生じた巨大なクローンであることが分かりました。この巨大クローンの分布の範囲は距離にして1000 kmを超える、世界的にも極めて珍しい大規模なものです。
 本研究成果は、植物生態学分野での国際的な学術雑誌である『Forests』に2021年2月16日付けでオンライン掲載されました。
 また、2022年4月に大阪市立大学と大阪府立大学は融合し新大学となることから、新大学においても今後推進するべく共同研究となります。

研究の背景

 雌雄異株の落葉樹であるヤマコウバシは、大陸には雄株と雌株が生育しています。しかし日本では雌株しか見つかっておらず、雌株が花粉を受け取ることなく、単為生殖で種子を生産します。作られた種子は原則的には母樹と同じ遺伝子をもつため、集団内に遺伝的多様性は生じないと考えられていました。しかし、単為生殖を行う植物の中には、種子生産の段階で遺伝的な変異を生み、ある程度の遺伝的多様性が見られたり、数百kmの範囲を調べると、遺伝的に異なる複数の集団が見られる種もあることが分かっていました。そこで我々は、市民や研究者からも高い関心がもたれている日本のヤマコウバシについて、これがどのタイプに当てはまるのか、またどのように集団を維持しているのかを明らかにすべく研究に着手しました。(*)

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冬枯れの林の中のヤマコウバシ(左)とヤマコウバシの果実(右)(いずれも名波准教授撮影)

* https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2146#
 https://kobehana.at.webry.info/201502/article_4.html
 http://sizenkansatu.jp/tpi/tp_17.html
 http://zasshonokuma.web.fc2.com/yagyo/ya/yamakobasi/yamakobasi.html

研究の内容

 我々のチームは、ヤマコウバシの親木や種子のサンプルを東北(宮城)から九州(熊本)にかけて集め、東北大学と大阪府立大学で所有する遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる装置である次世代シーケンサーを駆使することで、DNA配列の多数の1塩基多型(SNPs)を検出しました。塩基配列をサンプル間で比較したところ、種子の遺伝子型は母樹のものの正確なコピーであることだけでなく、日本中のサンプル間で変異がほとんど見られないことが明らかになりました。これは、直線距離にして1000 kmを超える範囲に分布するヤマコウバシが、たった1本の雌株から生じた巨大なクローンであることを意味します。これほど大規模なクローンは世界的にも珍しく、驚くべき結果です。

 さらに我々は、ヤマコウバシと近縁の雌雄異株樹種であるアブラチャン、クロモジ、ダンコウバイの3種についても同様の調査を行いました。これら3種については、日本に雌雄両方の株が生育しています。解析の結果、これらの樹種では自家受精や単為生殖を行わず、近交弱勢が防がれていることが分かりました。このことは、動いて交配相手を探すことができないという雌雄異株植物の不利を補っていると考えられます。

今後の展開と応用について

 植物種の多くは1株の中におしべとめしべを兼ね備える両性株の生物ですが、中には雄株と雌株に分かれた雌雄異株の種もあります。動いて交配相手を探すことができず不利を抱えているはずの雌雄異株植物が、いかに集団を維持しているのかについては未解明の点が多く残されています。今回の結果から、アブラチャン、クロモジ、ダンコウバイのように、近交弱勢を避けることで不利を補っている植物もあれば、ヤマコウバシのように、雌株が単独で種子生産する有利性を獲得した種もあり、植物の生き様が多様性に富んでいることが示されました。さらに研究を進めることで、生物の世界に性というシステムが広く存在する理由の解明につながる可能性があると考えています。
 最後に、ヤマコウバシのように遺伝的な多様性が低い集団は、地球温暖化などの環境の変化によって一網打尽にされ絶滅する危険があるため、その生育状況を注意深く見守る必要があります。

掲載誌情報

【発表雑誌】『Forests』(IF=2.2)
【論 文 名 】Genetic diversity and structure of apomictic and sexually
      reproducing Lindera species (Lauraceae) in Japan
【 著 者 】Mizuho Nakamura, Satoshi Namami, Seiya Okuno, Shun K. Hirota,
     ? Ayumi Matsuo, Yoshihisa Suyama, Hayato Tokumoto,
     ? Shizue Yoshinhara, Akira Itoh
【論文URL 】https://www.mdpi.com/1999-4907/12/2/227

研究協力?資金情報

 大阪府立大学 21世紀科学研究センター 先端ゲノミクス研究所(所長:大塚 耕司)
 日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(C) 「雌雄異株樹木の頻度の地域間変異
 を生む要因の探索」(16K07783)(代表: 名波哲)
 日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B) 「無性生殖で殖える外来植物の分布
 拡大過程:日本の雑種タンポポをモデルケースとして」(18H02224)
(代表: 伊東明)